阿弥陀如来様
倚りかかりなさい
阿弥陀様の耳は大きい。
それは、言葉にならないほどの悲しみの心を、涙を、存在を聞いておられるんだ。聞き漏らすことがないように。
阿弥陀様の目は細い。
それは、一緒に泣いてくださっているんだ。分け隔てなくみんなの苦しみに涙し、瞼が腫れておられるんだ。
何というやさしいお耳と、目。
私とは違って。
阿弥陀という仏さま。
座っておられない。立っておられる。
そして、よく見ると、前かがみ。
それはそのまま、この仏さまのお心をあらわす。
こんな話を聞いたことがあります。
5階建てのビルの2階で開催された食事会。
「火事だ~!!」
1階から火の手が上がる。
猛烈な勢いで燃え広がる火。
上へ上へと燃え上がる。
どうしていいか分からず、逃げ惑う参加者。
「とりあえず、上へ逃げよう!」
1人の若者が意を決し、3階、4階へと階段を駆け上がる。
5階。屋上。
もう、逃げる所がなく、万事休す。
火はますます盛んに燃え上がる。
「もう、だめだ」
なすすべなく膝を抱え、うずくまる若者。
すると、かなた下方から1つの声。
「飛び降りろ~!!」
屋上から下を覗き見ると、地上に大きなクッションマットが敷かれている様子。しかし、5階からは小さな座布団のよう。
「ここに着地すれば助かるぞ~!!」
「どうしよう・・でも少しでも着地点がずれると・・・」
踏み出せない若者。再びなすすべなくうずくまる。
すると今度は上方より大きな音。
「バラバラバラ」
ヘリコプター。そして、ハシゴが下りてきた。
若者のすぐそばに下りてきたハシゴ。
その先には、屈強な装備を身に着けた、自衛隊員。
若者のすぐそばで手を広げたその方から、聞こえてきた言葉。
「倚りかかりなさい。そうすれば絶対に助かる」
若者は、力なくただ身を寄せた。
そして、助かった。
という話。
阿弥陀という仏さま。
立っておられる。
それは、私たちが飛び降りるのを「待たない」ということ。
私たちが助かりたい、と何か頑張るのを「待たない」
それは、あてにならないことだと知っておられるから。
そして前かがみ。
それは「準備が出来ています」ということ。
そして「あなたのそばに来てますよ」ということ。
あなたが助かる準備は出来ている。そしてもうあなたのそばにいる。
合掌して、お念仏。
「南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏」
「私に、倚りかかりなさい」
そんな声が、聞こえてくる。